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成年後見人なら何でも頼める?おひとりさまが知っておくべき「できること・できないこと」

最終更新日:2026年9月29日
(※本記事は2026年9月時点の現行民法に基づいて解説しています。成立済みの民法改正法は施行前です。)

「一人暮らしで親族とも疎遠だから老後が心配だけど、成年後見人をつけておけば大丈夫だよね?」
そのように考えている方もいるかもしれません。

確かに成年後見人は、判断能力が低下した本人に代わって預貯金を管理したり、介護保険サービスや施設入所の契約を結んだりする法的な代理人です。

しかし、成年後見人は「家族の代わりとして生活のすべてを引き受けてくれる人」ではありません。

次のようなことは原則として、成年後見人の通常の職務権限には含まれていません。

◆手術や延命治療などの医療行為への同意

◆病院や老人ホームに入る際の「身元保証人・連帯保証人」
◆日常的な買い物や家事、通院の付き添い
◆亡くなった後の通夜・告別式、納骨、賃貸住宅の明渡し(遺品整理)などを包括して行うこと

このコラムでは、誤解しやすい後見制度の境界線を整理し、後見制度だけではカバーしきれない老後の不安に対して「元気なうちにどのような備えができるのか」について解説します。

結論|成年後見人は「何でも代わりにしてくれる人」ではありません

家庭裁判所が選任する法定後見制度の「成年後見人」の主な役割は、判断能力が低下した方の「財産の保護」と「法律行為の代理」です。身の回りの世話をしたり、連帯保証人になったりする制度ではありません。

項目

成年後見人ができること

制度の限界(できないこと)

おひとりさまに必要な備え

財産管理

預貯金口座の管理、生活費や利用料の支払い

本人の利益にならない財産処分、裁判所の許可のない居住用不動産の処分

財産管理等委任契約
(判断能力があるうちの管理代行)

介護・生活

介護保険サービスや施設入所に関する契約・費用の支払い

実際の介護、掃除・洗濯、病院への付き添いなどの事実行為

ケアマネジャーや介護保険外サービスの活用・手配

医療・入院

医療費の支払い、医師への本人の生活歴や希望の情報提供

一般的な身体疾患の手術や侵襲的治療に対する法的な医療同意(※1)

尊厳死宣言書・リビングウィル(医療意思表明書)

身元保証

入院費・施設費の代理支払い

自らの財産をもって債務を負担する「連帯保証人」への就任

高齢者等終身サポート事業者等との連携(※2)

死後事務

相続財産の保存、弁済期到来済み債務の弁済、火葬・埋葬の契約(火葬契約等は家裁許可が必要)

生前の希望に沿った葬儀の執行、納骨・供養、住居整理などを包括して行う権限は当然にはない

死後事務委任契約

(※1)医療同意に関する注記
精神保健福祉法上の医療保護入院では、後見人・保佐人は「家族等」に含まれ、一定の場合に入院への同意者となることがあります。これは、一般的な身体疾患の手術・治療について後見人に医療同意権が認められているという意味ではありません。

(※2)身元保証等事業者利用時の注意点
民間の身元保証等高齢者サポート事業者を利用する際は、サービス内容・費用の明瞭さ、解約・返金規定、預託金の管理・保全方法(信託等を利用しているかを含む)を事前に十分確認する必要があります。

成年後見人に「できること」|財産管理と身上保護

成年後見人の中心的な役割は、本人の「財産管理」と、生活・医療・介護・福祉に関する契約などを通じた「身上保護」です。

なお、身上保護といっても、後見人自身が直接介護や家事を行うという意味ではありません。

  1. 預貯金と生活費の管理

    本人名義の口座を管理し、年金の受給確認、生活費の引き出し、税金・公共料金・医療費などの定期的な支払いを行います。
    また、本人が行った法律行為については、日用品の購入など日常生活に関する行為を除き、成年後見人が取り消すことができる場合があります(民法第9条)。

  2. 医療・介護サービスの契約手続き
    ケアプランに基づいた介護保険サービスの契約、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの施設入所契約を代理で行います。

    【注意点:自宅の処分には家庭裁判所の許可が必要】
    「後見人がつけば、施設入居費用を作るために自宅を自由に売却してもらえる」と思われがちですが、本人の居住用不動産を売却・賃貸・解体する場合、家庭裁判所の事前の許可が必須です(民法第859条の3)。

    本人の生活基盤を保護するための制約であり、たとえ後見人であっても自由に動かすことはできません。

成年後見人に「頼めないこと」|おひとりさまが直面する4つの壁

近しい親族がいなかったり、疎遠だったりする人が直面する「医療」「保証」「日常」「死後」の4領域において、後見制度には限界があります。

  1. 手術や延命治療の「医療同意」
    病気やケガで手術が必要になった際、医師から同意書への署名を求められることがあります。しかし、厚生労働省のガイドライン等に示されているとおり、成年後見人には一般的な身体医療への同意権は認められていません。
    後見人は、生前の本人の価値観や意思に関する情報を医療従事者へ伝えたり、必要な医療契約の締結や本人の財産から医療費を支払ったりするなどの支援を行いますが、治療そのものの決定を代わりに引き受けることはできません。

    なお、延命措置の中止等については、後見人の同意・不同意という単純な問題ではなく、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づき、医療・ケアチームが本人の意思を推定しながら話し合って方針を決めていくプロセスの中で扱われます。

  2. 入院・施設入所時の「身元保証人」
    成年後見人は、本人の財産から利用料を支払う窓口にはなれますが、成年後見人であることを理由に、本人の債務を自己の財産で保証する義務はありません。

    厚生労働省は、医療機関について、身元保証人等がいないことだけを理由とする入院拒否は医師法19条1項の「正当な事由」には当たらないとしています。また、介護施設等についても、身元保証人等がいないことはサービス提供を拒否する正当な理由には当たらないと示しています。
    ただ、緊急連絡先の確保や退院時の引き取り対応などの実務上の理由から、身元保証人を求められるケースは依然として存在します(緊急連絡先としての対応は、後見人の法定の職務ではなく実務慣行として行われているものです)。

  3. 日常生活の買い出しや通院の付き添い(事実行為)
    法律上の「身上保護」とは、本人の生活に配慮しながら福祉サービス等の契約を結ぶことを指し、後見人自身が身の回りの世話をすることではありません。

    日用品の買い出し、部屋の掃除、通院の車への付き添いといった実際の生活支援は後見人の職務外です。これらは訪問介護や地域の生活支援サービスなどを別途手配する必要があります。

  4. 亡くなった後の葬儀・供養・住居の引き渡し
    成年後見人の任務は、本人の死亡によって法律上当然に終了します。民法第873条の2の規定により、本人が亡くなった後も、一定の要件のもとで、成年後見人は相続財産の保存に必要な行為(公共料金契約の解約等)や既に弁済期が到来している債務の弁済を行えるほか、家庭裁判所の許可を得ることで火葬・埋葬に関する契約(場合によっては納骨堂等への納骨契約を含む)を行える場合があります。

しかし

といった死後の一連の手続きを、本人の希望に沿って包括的に行う権限が成年後見人に当然に与えられているわけではありません。

将来を整理する「生前対策のロードマップ」

成年後見制度だけでは、生活・医療・死後のすべてをカバーすることはできません。将来の安心を高めるためには、判断能力が十分にある「元気なうち」から、複数の仕組みを時間軸に沿って整理しておくことが大切です。

【第1段階:元気な時期】

・見守り契約(定期的な安否確認・面談等)

・任意後見契約をあらかじめ締結(公証役場で公正証書を作成)

・尊厳死宣言書/医療意思表明書(希望する医療・ケアについて意思を記録しておく)

・遺言書の作成(財産を誰に残すかを決めておく)

【第2段階:判断能力はあるが、手続きが負担になってきた時期】

・財産管理等委任契約(銀行窓口への同行、生活費支払いの代行等)

【第3段階:判断能力が不十分になった時期】

・任意後見の開始(家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が発生)

【第4段階:亡くなった後】

・死後事務委任契約に基づく死後事務(葬儀、納骨、住居の明渡し、遺品整理等)

・遺言の執行(財産承継手続き)

法定後見と任意後見は「始める時期」と「支援する人の決め方」が違う

法定後見と任意後見は、どちらが優れているかという問題ではなく、利用する時期や目的が異なる制度です。

法定後見では、成年後見人の候補者について希望を伝えることはできますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。本人の判断能力が低下した「後」に選任され、法定の権限に基づいて財産や権利が保護されます。

これに対して任意後見では、判断能力が十分にあるうちに、将来任意後見人になってもらう人を自分で選んで契約します。任せたい代理権の範囲もあらかじめ契約内容に盛り込むことができます。

なお、法定後見・任意後見のいずれも本人の死亡後の一連の手続きを包括的に担う制度ではありません。亡くなった後の葬儀や住居整理などを特定の人に依頼しておきたい場合には、死後事務委任契約を別途検討することになります。

【法改正情報】2026年成立の改正民法とこれからの備え

2026年6月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、同月24日に公布されました。この改正では、現行の「後見・保佐」の類型を廃止して「補助」制度へ一元化し、本人の意思決定を尊重しながら必要な範囲に絞って支援を利用できる仕組みに見直されることが決まっています。

ただし、この改正法は2026年9月現在まだ施行されていません(公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日に施行予定)。

制度の枠組みが見直されたとしても、財産管理等委任契約、任意後見契約、死後事務委任契約などを通じて「自分の意思で将来の備えを設計しておく」という考え方自体が不要になるわけではありません。
制度改正を理由にすべての備えを先送りするのではなく、現在の生活上の困りごとについては現行制度で対応できる方法を検討し、改正法の施行後に必要に応じて見直すという考え方が現実的です。

ご相談について

おひとりさまの終活で大切なのは、「特定の契約を急ぐこと」ではありません。
健康状態や生活環境が変化した際、「いつ」「誰に」「何を」頼めば自分らしく暮らせるのか、全体の道筋を整理することが大切です。

当事務所では、将来に不安を感じている方に向けて、予防法務の視点から生活設計の伴走支援を行っています。

このような段階でも、まずは現在のお困りごとや将来の希望をお聞かせください。初回のご相談では特定の契約を前提とせず、現在の状況とご本人の希望を丁寧に整理いたします。

※家庭裁判所に対する法定後見の申立書類作成など、裁判所関係の手続きや法的紛争が生じている事案につきましては、行政書士の職務権限外となります。事案に応じて司法書士や弁護士など、適切な専門家への相談をご案内いたします。

【参考】
・身寄りがない人への対応について(厚生労働省)
・身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて(医政医発0427第2号・平成30年4月27日)(厚生労働省)
・「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(厚生労働省)
・いわゆる『高齢者等終身サポート事業』の利用に関する注意点(消費者庁)

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的判断を保証するものではありません。ご自身の状況に応じた具体的な検討については、行政書士等の専門家にご相談ください。

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