ソラノイロ行政書士事務所
千葉の終活相談|任意後見・死後事務委任・遺言
「身寄りがないから」
「親族とは長年疎遠だから」
賃貸住宅でひとり暮らしをしていると、
こうした事情から「自分が亡くなったら、この部屋はどうなるのだろう」
という不安を抱えている方は少なくありません。
「まあ、最終的には大家さんが適当に片付けてくれるだろう」
そう思っていないでしょうか。
残念ながら、これは誤解です。
賃借人が亡くなっても、賃貸借契約は自動的に終わりません。
相続人がいる場合、賃貸借契約上の地位や本人所有の家財は、
原則として相続人に承継されます。
相続人の有無や所在が明らかでない場合には、
この『契約の終わらせ方』と『家財の片付け方』が問題になります。
さらに見過ごせないのは、「部屋が長期間放置される」こと自体が、
疎遠な親族に金銭的な負担として跳ね返ってくる可能性があるということです。
法律上、賃貸借契約上の地位は相続人に承継されるため、疎遠な親族であっても、
家賃相当額の支払いや部屋の原状回復費用を大家さんから請求される立場になり得ます。
「関わりたくない」と考えていても、相続人になれば何もしないだけで賃貸借契約に関する問題から離れられるわけではありません。
相続を望まない場合には、相続放棄の手続きを検討する必要があります。
このコラムでは、このような問題がなぜ起きるのか、
そして生前にどのような備えができるのかを解説します。

大家さんの立場から見ると、この問題はさらに切実です。
賃借人が亡くなっても、
大家さんが室内の家財を自由に処分できるわけではありません。
相続人の承諾など必要な手続きを経ずに残置物を廃棄すれば、
後に相続人との間で損害賠償などの問題が生じる可能性があります。
つまり、大家さんにとっても「勝手に片付ける」という選択肢は、
法的リスクを伴う危険な行為なのです。
こうした不安から、
身寄りのない単身者や高齢者の入居申込みに慎重になる大家さんもいます。
相続人の存在・不存在が明らかでない場合には、
大家さんなどの利害関係人が家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要が生じることもあります。
また、事案によっては、家庭裁判所から数十万円~100万円規模の予納金を求められるケースも存在します。
この大きな金銭的リスクへの不安が、大家さんが入居審査を厳しくしている可能性もあり、入居そのものを断るという行動につながることもあります。
つまり、「自分の死後の備え」は、疎遠な親族への負担だけでなく、
今後の賃貸借契約の更新や、次の住まいを探す際の入居審査にも関わってくる可能性がある問題なのです。
こうした状況を受けて、国土交通省と法務省は2021年6月「残置物の処理等に関するモデル契約条項(以下「モデル契約条項」といいます。)」を策定しました。
これは、賃借人が生前に受任者と契約を結んでおくことで、亡くなった後の賃貸借契約の解除と、部屋に残った家財の処理を、あらかじめ決めた相手に任せておける仕組みです。
構成はシンプルで、次の2つの契約から成り立っています。
解除関係事務委任契約……受任者に、賃貸人との合意によって賃貸借契約を解除する代理権などを与えておく契約
残置物関係事務委託契約……受任者に、残しておきたい物の送付やそれ以外の物の廃棄・換価を任せる契約
大家さんは、入居者がこの契約を結んでいることが確認できれば、
「万が一のときも、きちんと手続きが進む」と安心できます。
入居者にとっては自分の死後の備えとなるだけでなく、賃借人の死亡後の契約関係や残置物処理に対する大家さんの不安を軽減し、単身高齢者の入居機会を広げることも期待できます。
ここは注意しておきたいポイントです。
モデル契約条項は、原則として60歳以上の単身高齢者が賃貸住宅を借りる場合を想定して作られています。
ただし、60歳未満であっても、
推定相続人がいない
推定相続人の所在が分からない
緊急連絡先を確保できない
など、死亡後に残置物を処理する人と連絡を取ることが期待できない場合には、入居支援のために利用すること自体は否定されていません。
一方で、残置物処理について賃貸人側の不安が生じにくいケースで一律に利用すると、契約内容によっては民法や消費者契約法との関係で無効となる場合があることも、モデル契約条項Q&A(利用場面に関するQ1)で示されています。
そのため、「ひとり暮らしだから、とりあえずこの契約を結んでおけばよい」というものではありません。年齢、家族関係、相続人の状況、賃貸借契約の内容などを確認したうえで、自分に必要な備えを検討することが重要です。
「自分は対象になるのか分からない」という場合は、ご自身の状況を整理するところから始めてみてください。
ここまで読んで、こう思った方も多いはずです。
「制度があるのはわかった。でも、私にはこの役割を頼める家族がいない」
これはまさに、この制度を最も必要としている方が最初にぶつかる壁です。
制度があっても、頼む相手(受任者)がいなければ、絵に描いた餅にすぎません。
結論から言うと、受任者は家族でなければならないわけではありません。
モデル契約条項Q&Aでは、まず賃借人の推定相続人が受任者となることが望ましいとされていますが、推定相続人がいない、または所在が分からない場合には、居住支援法人や、賃貸物件の管理業者などの第三者を受任者とすることが、制度上想定されています。
居住支援法人は、住まいの確保が難しい方を支援するために都道府県から指定を受けた法人で、社会福祉法人やNPO法人などが担っているケースもあります。
ただし、受任者の選定には注意が必要です。
賃貸人(オーナー)自身や、転貸人(賃貸人)の立場にある管理業者は、賃借人側との利害が対立する可能性があるため、受任者とすることは避けるべきとされています。
居住支援法人や管理業者への打診、契約内容の確認・調整が必要になる場合もあります。行政書士などの専門職に相談することで、受任者候補や必要な契約を整理しながら進めることができます。
もう一つ、忘れてはならない実務上の課題があります。
それは「第三者に受任者を依頼する場合、死後の片付け費用や報酬をどう支払うのか」という問題です。
第三者に依頼する場合には、依頼先によって報酬や実費が必要になることがあります。
実務上は、必要となる費用をあらかじめ預託しておく方法や、残置物処理費用等を補償対象とする少額短期保険などを活用する方法もあります。ただし、保険の補償範囲や条件は商品によって異なるため、個別に確認する必要があります。
当事務所は、残置物の運び出しや処分そのものを行うわけではありません。
私たちの役割は、法務の専門家として、あなたと大家さん、そして受任者となる第三者との間に立ち、あなたの状況に最適な仕組みを「設計」し、モデル契約条項や関係法令を踏まえて、必要な内容を書面化することです。
最適なプランニング: 年齢や相続人の有無を確認し、モデル契約や死後事務委任契約から最適な備えを提案します。
受任者選びと連携: 居住支援法人との調整や、支払い原資(預託金等)を確保する仕組みづくりを主導します。
実効性のある契約書作成: モデル契約条項やご本人の状況を踏まえ、大家さんにも安心してもらえるよう、必要な内容を整理した契約書を作成します。
遺言・死後事務とのセット設計: 財産の承継(遺言)や住まい以外の死後手続も含め、全体を俯瞰して法的サポートを行います。
「残置物をどう処理するか」と「財産を誰に承継させるか」は、法律上それぞれ別に整理する必要があります。
どちらか一方だけを整えても、もう一方が抜け落ちていれば、結局ご家族や関係者に負担が残ってしまいます。
さらに、葬儀や納骨、公共料金・携帯電話の解約といった住まい以外の死後事務については、「死後事務委任契約」であらかじめ備えておく方法もあります。
こうした「住まい」「死後の手続」「財産」の全体を見ながら、必要な契約や書類を整理できることは、行政書士がサポートできることの一つです。

まずは「誰に何を任せるか」、そして「どの制度を使うべきか」の現状整理から当事務所がサポートします。
なお、私たち行政書士は、予防法務の専門家として「争いを未然に防ぐための契約書作成や仕組みづくり」を行います。ご相談いただいた時点で、すでに大家さんや親族間で法的なトラブル(紛争)が生じている場合には、必要に応じて、紛争解決を扱う弁護士への相談をご案内します。
【参考】
「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(国土交通省・法務省)
「残置物の処理等に関するモデル契約条項に係るQ&A」(国土交通省・法務省)
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的判断を保証するものではありません。ご自身の状況に応じた具体的な検討については、行政書士等の専門家にご相談ください。